《アッポッジョについて》
良い声を遠くに飛ばすときは支え(アッポッジョ)が必要になります。
腹部の横側や背中側に内側から外側に向けて圧力を加え、声を作り出すための呼吸を維持することが大切です。
歌うときの支えは、全身の力と力による「支え合い」です。支え合いの中で、どちらかの力が弱まると、「力み声」や「揺れ声」などの偏りを生みます。歌うときは、息を吸ったときの腹部と胸郭、及び背中の適度に張った状態を維持しながら声を出すと良いです。
また、声の支えは“筋肉の相互支持”と“個人の感情のぶつかり合い”で作ると良いです。筋肉の場合は、吸気筋と呼気筋の相互支持。感情の場合は正の感情と負の感情のぶつかり合いです。
逆方向に存在する力が、お互いの力を常に支えています。
支えのそれぞれの力は、逆向きの力と力の対立で強化されます。逆向きの力が合わさったとき、それらの力は無くなるわけではありません。お互いの力で支えられたときに楽に感じても、力を抜いているわけではありません。それらの逆向きの力を閉じ込めつつ声を出すことが、支えでは重要です。
(ポイント)
・よく通る声で歌うときは支えが必要になる。腹部の横側や背中側に内側から外側に向けて圧力を加えて、声を作り出すための呼吸を維持することが大切。
・歌うときの支えは、全身の力と力による支え合い。支え合いの中で、どちらかの力が弱まると、「力み声」や「揺れ声」などの偏りになる。
・歌うときは、息を吸ったときの腹部と背中の状態を維持しながら声を出すと良い。吸気筋と呼気筋の支え合いが大切。
・ブレスをするときも吸気筋と呼気筋を支え合わせ続けると良い。ブレスで支えをゆるめると、その後の歌唱は少しずつ崩れる。高い声は出なくなる場合もある。
・肺の膨らみによって胸郭全体、特に肋骨が開かれる感覚が大切。肋骨は一番下の肋骨を左右に開いておくと良い。一番下の肋骨が委縮して閉じてしまうと、横隔膜の動きが制限されて呼吸の圧力が弱くなってしまう。
《アッポッジョと脱力について》
発声は筋肉を使って行います。そのため、意図的に脱力(リラックス)させないことが大切です。発声時の正しい脱力は、力みを「点」から「面」に変えることです。声を出すための全身の力みの点を、分配して支え合う必要があります。力みを支え合うことでそれぞれの負担は軽減され、脱力に近い“脱力感”が生まれます。
発声時の「力」は力みをコントロールして脱力感を得ることが正しく、力を抜くという方法では必要な力も一緒に抜けてしまう危険性があります。
・脱力という行為よりも脱力感が大切。結果的な感覚を先取りして脱力行為で脱力やリラックスを行うと必要な力も抜けている。
・力みを加減することが重要。力みは多すぎず、少なすぎないようにする。ラジオのチューナーを操作するようなさじ加減が大切。
・発声においての脱力やリラックスは結果的な感覚。この結果的な感覚は、力みの全身へのバランスのとれた分配。一カ所に力が集中すると力みになり、声が潰れたり歪んだりする。この一カ所に集中した力を全身で上手く分かち合うことが本当の脱力(リラックス)。
・脱力やリラックスを“力を抜くこと”と解釈して実践してしまうと、支えの無い弱い声になる。発声はバランスの良い安定した“力み”の全身への分配が大切。
・全体が100で、20の固まりで点在する力みを1~5の細かい単位に分けて全身で支え合うことが重要。力みの総量自体は減らさずに、偏りを減らすテクニックが良い声につながる。
・発声は基礎の練習を繰り返して、自然で安定した発声を「自動的な感覚」で行えるようにする必要がある。この「自動的な感覚」を「自動的=何もしない(力を抜く、リラックスする)」のように解釈しないことが大切。本当の脱力は常に“力”が必要。
・基礎を全身の筋肉に記憶させ、歌うときは「何もしていないような脱力に近い感覚」にすることが大切。力を抜く“感覚”が重要であり、力そのものを抜くことではない。
・最初から脱力やリラックスをすると、発声は偏ったり崩れたりする。脱力やリラックスは結果的な感覚。喉を開けることも結果的な感覚なので、最初の内は喉を開けない方が良い発声の基礎作りになる。
・“喉頭周辺の筋肉”や“息が流れ出ないように圧力を我慢する筋肉”が必要。この我慢する筋肉は、力みからスタートして少しずつ全身に分配して“楽な感覚”にすると良い。
《声の闘争について》
声の闘争(ラ ロッタ ヴォカーレ)とは、呼吸筋の“吸気筋”と“呼気筋”の支え合いのことです。この支え合いがアッポッジョを作る上で重要な働きをします。支え合いが偏ると声は崩れることになります。声を出しているときは声の流れの中に“息を止める感覚”や“息を吸う感覚”を適度に含ませておくと良いです。声の闘争はオペラなどの声楽的な技術ですが、声を遠くに飛ばすときや芯のある声を出すときにも有効な技術です。
声の闘争は様々な発声の基礎になるテクニックです。声の闘争による呼気と吸気の圧力を感じ、発声が息の量よりも息の圧力の方が大切という事実に気が付く必要があります。圧力の制御が可能になれば、少ない息の量でも芯のある声を出すことが出来ます。
また、ピアノやピアニッシモで歌う場合も声の闘争を利用することになります。
(ポイント)
・支えのある声を出すときは、吸気時の“吸気筋の機能”を“発声時”にも残しておくことが大切。均等な呼気の力と吸気の力を対立させて支え合う必要がある。
・声の闘争は、呼気と吸気の同レベルの支え合いが大切だが、本当に同じレベルだと声が出なくなる。呼気と吸気は実際には50対50ではなく、51対49のようになる。少しだけ呼気を強くすることで発声が可能になる。出来るだけ同レベルに近付けることで、遠くまでよく通る強い声になる。
・声の闘争は声門下圧が重要になる。呼気と吸気の支え合いで呼吸を制御し、声門閉鎖によって息の出入口を管理して圧力を維持する必要がある。声門が開きっぱなしだと圧力がすぐに逃げてしまい、声の支えが弱くなってしまう。
・よく通る声を出すときは、吸気筋と呼気筋の同じ力による相互支持で声を支えると良い。声の闘争はアッポッジョ(支え)と密接に関係している。
・声の闘争は闘争状態の維持が大切。“呼気50”対“吸気50”に近づけることが理想。どちらかが勝ってしまうと発声は不安定になる。“呼気51”対“吸気49”の闘争を、決着をつけないで継続するテクニックが重要。
(まとめ)
アッポッジョという言葉は、意味よりも体感で知ることになります。発する力と受ける力、この双方向からの相互支持による”普通”の状態がアッポッジョです。何もしない普通ではなく、力の双方向からの支持を受け止め続けることで実現します。アッポッジョは実行する行為というよりも継続する行為です。また、アッポッジョは声の闘争を常に同時進行させるため、アッポッジョと声の闘争はセットで覚えておくことが大切です。人間が発する声は、”出す”という意識では出ず、”出さない”という技術によって響きと輝きを得て発せられます。特に、声を口から積極的に出そうとするとアッポッジョの無い声になる場合があります。声を出すという意識よりも閉じ込めておく意識が必要になります。圧力の維持がアッポッジョにつながるため、ほとんど息を出さずに声を出す感覚が大切です。高い声を出す場合は、息を止めて声を出す感覚が必要です。
ここの文章は、私が執筆したKindleのボイトレ本の内容から一部を抜粋し、改変したものです。
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