口蓋化と胸式呼吸を利用したボイストレーニング及び声の焦点
遠くまでよく通る声を飛ばすときは、声の焦点を感じながら声を出すと良いです。この声の焦点は上前歯の付け根に感じることが大切です。
口腔は適度に圧縮し、口腔前方の舌と口の天井(口蓋、特に硬口蓋)との距離は少し狭くしておく必要があります。これが最適な狭さよりも広がってしまうと、焦点のぼやけた声になり良く飛ばない声になります。狭すぎると潰れた声になってしまうので、これも良いとは言えません。ちょうど良い一瞬を探す必要があります。ラジオのチューナーを微調節するようなイメージで行うと良いです。
《内転筋の収縮と腸腰筋の安定》
よく通る声を出すときは、太ももの内側の内転筋に力を入れると良いです。発声時は腰を安定させて背中を使いやすくすることが大切です。また、足の裏で地面を押し返すことも良い声を出すためには必要です。内転筋を引き締めることと腸腰筋を安定させることで、全身を使った発声になります。
内転筋や腸腰筋を意識して歌うことは、姿勢と呼吸にも良いです。特に、高い声を出すときは内転筋を引き締めて、力を内側に閉じ込めておくと良いです。力が外側に逃げてしまうと声の支えが無くなりやすくなります。
《胸式(きょうしき)呼吸の利用》
胸で呼吸をすることは良くないと思われがちですが、胸式呼吸を部分的に利用することは発声で重要です。特に、肩を少し浮かせることや胸郭全体を横に開きながら発声練習をすることで呼吸が深まり、さらに密度のある高い気圧の呼吸になります。この気圧を維持しながら声を微調整することがよく通る声を出すためには必要です。
息の流れを胸や鎖骨付近で止めながら声を出す感触も有効です。また、胸式呼吸の利用は高い声を出す時にも有効です。
(ポイント)
1 胸式呼吸で息を吸い、胸を少し高める(肩も全体的に少し浮かせる)
2 胸式呼吸で息を吸った状態を維持する(胸郭全体を少し高めに浮かせて保持)
3 その状態のまま背中の首すじから腰を伸縮・緊張させながら声を出す(呼吸だけの練習でも有効)
以上のポイントが大切です。胸郭の“止める力”を抜いてしまうと呼吸の圧力が弱まるので胸筋と腹筋・背筋の連携による適度な緊張(力と力の支え合い、あるいは拮抗)が大切です。
最適な緊張が、よく通る切れ味のある声には必要です。
よく通る声を出すときは、腹部の横側と背中側を適度に張り続けて声を支えましょう。また、声を伸ばすときは背中や太ももの内側に力を込めて息を支え続ける呼吸の維持管理が大切です。レガートに歌うためには、腹部の支えの柔軟な連続性が大切です。呼吸は腹部と背中の連携を意識し、腹部と背中にある、隣接する筋肉同士の支え合いで保持しましょう。
腹部の前側の腹直筋を使うと呼吸が固くなり薄い声や弱い呼吸になります。腹直筋の中で使う部分は最下部にある錐体筋です。錐体筋に力を入れて呼吸を支えることは良い声作りに効果的です。錐体筋と内転筋に力を入れることで、上半身と下半身の連携をサポートすることが声の安定につながります。
音と音の高さが離れているときは、支えの維持が難しくなります。次の音まで息の流れが止まりそうな感覚を含ませて腹部の圧力を維持すると良いです。
スタッカートの練習は、腹部と背中を使います。背中を使って腹部全体に細かくて適度な緊張を、内側から外側に向けて与えると良いです。喉でスタッカートをしないように気をつけましょう。
アッポッジョのある声は、背中(首すじ、脊柱起立筋、腰)で支えることになります。特に、首すじから腰にかけての適度な緊張が必要になります。息を吐くときや発声時は胸郭や腹部及び背中が縮まろうとするので、内側から外側に向けて力をはね返しながら歌うと良いです。
(ポイント)
呼吸や声を出すときの腹横筋と腹斜筋は、横隔膜の機能を支えて補助しています。腹横筋は腹部を一周するようにあります。背中を使った腹式呼吸で歌うときは、腹部の横側と背中側及び胸郭全体が広がるようにすると良いです。
支えのある声で歌うときは、腹部一周の広がりを維持し、しぼまないように適度に脇腹と背中を張ると良いです。支えの安定した呼吸は、背中の筋肉の維持が特に大切です。
ステージで歌う歌手が大きく感じられる場合は“存在感がある”や“オーラがある”というイメージだけでなく、呼吸筋や発声筋群の支えによって実際に大きくなっていると言えます。
明るい声を出すときは、舌の位置が重要です。
イやエを出すときの舌の位置を保持して声を出すと良いです。口腔の前側を狭く圧縮させることと、舌がのどの奥に行かないことが大切です。また、声を上前歯の根元に当てる感覚も有効です。
明るい声やよく通る声を出すときは、下前歯の裏に舌先を付けて、そのまま舌の前側を少し盛り上げます。そして上前歯の付け根に向けて声を当てると良いです。
(ポイント)
発声の際に、舌の前側の表面が硬口蓋に接近することを口蓋化といいます。口蓋化されたときの声は、良く通る明るい響きになります。
特にイ母音のときに最も口蓋化されやすく、次にエ母音となります。アオウの母音は舌の位置関係から口蓋化されにくいです。
発声練習で良く通る声を出すときは、イやエを発声するときのように舌先を下前歯の裏に付けながら舌の前側を盛り上げ、口蓋(口の天井)に接近させておくと良いです。基本的な発声練習では、良く通る声を出すためにすべての母音がイ母音のように響くことを目標にすると良いです。しかし、イ母音を意識し過ぎると硬く平べったい声になってしまいます。適切に口蓋化を利用して、歌の雰囲気やジャンルに合った声の出し方を心がけることが大切です。
明るい声を明るい心で出すという方法は結果的な心情の利用といえます。明るい声は気持ちよりも口腔の狭さや気圧の確保が重要であり、物理的な操作感が大切です。
ここの文章は、私が執筆したKindleのボイトレ本の内容から一部を抜粋し、改変したものです。
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